「仕事が軌道に乗り始めた」
まさにこれからというタイミングで、すべてを投げ出して逃げたくなったことはないだろうか。
苦労して全体像をつかんで、やっと成果が出始めた。周りからは「順調だね」と言われている。
なのに、自分の心のなかでは「あ、もうこれ以上は同じことの繰り返しだな」と、急速に熱が冷めていく。
その結果、せっかく積み上げてきたものを自分から手放してしまう。
そして深夜に布団のなかで「自分はなんてこらえ性のない人間なんだろう」と自己嫌悪に陥る。
もしこの話に少しでも心当たりがあるなら、この先を読んでほしい。
よくある「飽き性を治しましょう」「忍耐力を鍛えましょう」という話はしない。
そもそも飽きは「治す」ものではない。HSS型HSPにとって飽きは気質の一部であり、付き合い方さえ間違えなければ、むしろ武器にもなり得る。
ただし、付き合い方を間違えると、キャリアが積み上がらないまま年齢だけが重なっていく。これが一番怖い展開だ。
今日はその「付き合い方」を、二段構えの具体的な戦略として、私自身の失敗体験も交えながら書いていく。
私自身が「飽き」に振り回されてきた人間だ
私自身がHSS型HSPで、まさに「飽き」に人生を振り回されてきた側の人間だ。
興味を持ったらすぐ飛び込む。短期間で全体像をつかむ。そして飽きて手放す。このサイクルを何十回と繰り返してきた。
転職は10回以上、副業は6つ試した。そのうち2つは成果が出ていたが、全部やめてしまった。
理由はシンプルに飽きてしまったからだ。
振り返ると、飽きてやめてしまったことは数え切れない。
そのなかで一つ、決定的に気づいたことがある。飽きること自体が問題なのではなく、飽きたときの「手放し方」と「次の選び方」がまずかったのだ。
今は才気道(さいきどう)という、HSS型HSPやマルチポテンシャライト向けの思考整理メソッドの家元として活動している。
このメソッドの核にある考え方は「引き算」だ。新しい知識やスキルを足すのではなく、頭のなかの余計なものを引くことで、自分にとって本当に大事なものを見極める。
この「引き算」の視点が、飽きとの付き合い方にもそのまま効いてくる。
なぜHSS型HSPは飽きやすいのか
まず前提として、なぜHSS型HSPは飽きやすいのかを整理しておく。
HSS型HSPは「刺激追求」と「感受性の高さ」という、矛盾する2つの特性を同時に持っている。
刺激追求があるから、興味のあることにはトコトンのめり込む。短期間での集中力はすさまじい。概要や全体像の把握などは短期間でできてしまう。
ところが、全体像が見えた瞬間に刺激が消える。
「あっ、だいたい分かったな」
この感覚が訪れた途端、急速に退屈になっていく。
映画のネタバレを食らったような感覚に近いかもしれない。結末が分かった映画を、残り1時間座って観続ける苦痛を想像してみてほしい。HSS型HSPにとって、刺激がなくなった状態で何かを続けるのは、それに近い感覚だ。
一般的な人が「ちょっとマンネリだな」と思う程度のことを、HSS型HSPは「もう耐えられない」レベルで苦痛に感じる。
だから飽きる。しかも速い。
これは意志の弱さではない。気質だ。
ここを理解しないまま「自分はダメなやつだ」と責めてしまう人が非常に多いが、まず、この自責のループから降りてほしい。飽きること自体は、あなたの落ち度ではない。
問題は、飽きたあとにどう動くかだ。
飽きたときにやりがちな失敗パターン
ここから、私自身の経験も含めて「飽きたときにやりがちな失敗」を共有する。
失敗①:全部投げ出してリセットする
飽きると、もうそのこと自体が苦痛になる。だから全部やめてしまいたくなる。
気持ちは痛いほど分かる。私も何度もやった。
せっかく事業が軌道に乗りかけていたのに、飽きて手放した経験がある。
私はフリーランスでWebライティングの業務委託を受けていたことがある。瞬間風速ではあるが月100万円を稼げたこともある。軌道に乗ってからは、月20万〜40万円は稼げていた。
しかし「飽きた」という理由で、軌道に乗ってきた業務委託を簡単に手放してしまった。慣れてしまい、続けることが苦痛になったのだ。
冷静に振り返れば、対処方法さえ知っていれば全然違う景色が見えていたはずだ。でもそのときの自分には、その対処法も知らなければ、手放す以外の知恵もなかった。
失敗②:すぐ次の「刺激」に飛びつく
全部投げ出したあと、何が起こるか。また新しいことに飛びつく。
「これだ!今度こそ間違いない!」と思って始める。最初の数週間は楽しい。でも、また同じサイクルに入る。
興奮 → 没頭 → 概要把握 → 飽き → リセット → 次の刺激
このループを繰り返していると、履歴書だけが長くなって、キャリアが積み上がらない。
一番怖いのは、このループ自体に飽きが来ないことだ。「新しいことを始める」という行為そのものが刺激になってしまうから、ループが自己強化されてしまう。
失敗③:「稼げるから」「格好いいから」で次を選ぶ
飽きて次を探すとき、つい収入面や見栄で選びがちになる。
判断材料のひとつにするのはいい。でも、それだけで選ぶと、また同じ結末を迎える。
HSS型HSPは、ある程度の収入があっても刺激がなければ耐えられない。見栄だけでは退屈に勝てない。
この3つの失敗パターンに共通しているのは「目の前の苦痛から逃げるために、足し算で解決しようとしている」ということだ。
新しい仕事を足す。新しいスキルを足す。新しい環境を足す。でも、足せば足すほど選択肢が増えて、頭のなかがカオスになる。そして、またどれも中途半端になる。
HSS型HSPに必要なのは、新しいことを次々と足していくことではない。
HSS型HSPという気質を理解したうえでの「工夫」だ。
飽きとの付き合い方:二段構えの戦略
ここから具体的な対策を書く。対策は大きく2つ。この二段構えで挑むことが重要だ。
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【対策①】自分がいなくても回る仕組みを作る
HSS型HSPが飽きと付き合うための一つ目の対策は「自分が飽きても、それが回り続ける仕組み」を最初から設計するということだ。
世の中は「続けられない人」に対する見方が厳しい。「石の上にも3年」「こらえ性がない」「続けられないやつはダメだ」。そのようなレッテルを容易に貼られてしまう。
確かに、仕事も事業も長く続けなければ軌道に乗らないのは事実だ。
でも、よく考えてみてほしい。「長く続ける」ことと「自分が最前線に立ち続ける」ことは、イコールではない。
HSS型HSPは、ゼロからイチを作るフェーズに圧倒的な強みがある。全体像を短期間で掴める能力は、立ち上げ期に最も活きる。
逆に、イチから十に育てる運用フェーズは刺激が減っていくため苦手になりやすい。
だったら、最初からそういう前提で設計すればいい。
たとえば、私のWebライティング事業を例に出す。当時の私は、案件の受注から執筆、納品まで全部を自分ひとりでやっていた。
もしあのとき「仕組み化」の発想があれば、こういう設計ができたはずだ。
自分が得意な「案件の獲得」と「クライアントとの初回ヒアリング」だけを自分の役割にする。ここはゼロからイチを作るフェーズなので、刺激がある。
そして、実際の執筆作業は自分が蓄積したノウハウをマニュアル化して、外注ライターさんにお任せする。最終チェックだけ自分がやる。
こうすれば、自分が「書くこと」に飽きても事業自体は回り続ける。自分は新しいクライアントの開拓や、新しいジャンルへの挑戦に集中できる。
これが「飽きる前提で設計する」ということだ。
大きな組織を作れと言っているわけではない。むしろHSS型HSPには、大きな組織のプレッシャーは負荷が大きすぎる。何十人も抱える組織をマネジメントするのは、ウィークポイントを突かれる場面が増える。
小さくていい。自分と外注パートナーが数人いればいい。大事なのは「自分が最前線から離れても回り続ける仕組み」を、熱量があるうちに作っておくことだ。
飽きる自分を否定するのではなく、飽きる前提で設計する。これが一つ目の対策だ。
ただし、これには前提条件がある。ある程度の裁量や環境が必要だということだ。会社員で権限がない場合、仕組み化が難しい場面もある。だから二つ目の対策が必要になる。
【対策②】飽きづらいことを選ぶ
そもそも飽きづらいことを選ぶ。これが二つ目の対策だ。
HSS型HSPといっても、すべてに飽きるわけではない。飽きづらいことは存在する。
私自身で言えば、長く続けられていることがいくつかある。コンテンツ制作、企画を練る、人に伝える・教える、などだ。
共通点は「毎回、新しいものを作る」という点だ。同じ作業の繰り返しではなく、毎回違うテーマ、違う切り口、違うアウトプットがある。だから刺激が途切れにくい。
基本的にHSS型HSPは、クリエイティブな仕事との相性がいいと言われている。デザイン、執筆、映像制作、音楽、企画。刺激の供給が途切れにくいジャンルだ。
逆に、避けたほうがいい環境もはっきりしている。
ルーティン作業が中心の環境。工場の流れ作業や定型の事務作業。同じ工程を繰り返すため「刺激」とはほど遠い。HSS型HSPが長く続けるのは、かなり厳しい。
過度なプレッシャーが常にかかる環境。ノルマが厳しい営業職などが該当する。
私は過去、ゴリゴリの営業会社にいたことがある。常に数字を求められ、成果が上がらなかったら詰められる。数字が上がらない人に居場所はない。そういう環境だった。
精神をすり減らして働いているので、仕事から帰ってくるとヘトヘトだ。寝ると一瞬で朝になるので、寝るのが怖いと思った。日曜の夜になると「また明日から一週間が始まるのか」と憂鬱になる。正直、この会社にいたときは「病む」と本気で思った。
結局、半年も持たなかった。
HSS型HSPは能力の凸凹が激しい。一部分が尖っている代わりに、ウィークポイントも明確にある。自分の弱い部分でパフォーマンスを求められると、途端に動けなくなる。
だからこそ、飽きづらいことを選ぶためには、自分の凸凹を正確に把握する必要がある。
飽きづらい仕事を選ぶ → 長く続けやすい → 成果が出る → 評価が積み上がる → キャリアが積み上がる
この好循環が生まれる。
ただし、ここが最大の落とし穴だ
「飽きづらいことを選べ」と言われて「それが分からないから困っているんだよ」と思わなかっただろうか。
実はここが一番のポイントであり、多くの人がつまずく場所でもある。
なぜ「自分にとって飽きづらいこと」が分からないのか。
理由はシンプルだ。頭のなかがカオスだからだ。
HSS型HSPは興味の幅が広い。過去にいろんなことに手を出してきた経験もある。やりたいこと、やれそうなこと、やるべきこと、やったほうがいいと言われたこと。これらが全部、頭のなかでゴチャゴチャに混ざっている。
この状態で「飽きづらいことを選べ」と言われても、選べるわけがない。
選択肢が多すぎて、どれが本当に自分に合っているのか判断できない。だから「とりあえず稼げそうなもの」「なんとなく格好いいもの」に飛びついてしまう。そして、また飽きる。
ここで必要なのが「引き算」だ。
新しい選択肢を足すのではなく、今ある選択肢を削ぎ落とす。頭のなかのノイズを整理して、本当に自分が反応するものだけを残す。
私が才気道で最初にやるのが、まさにこの「思考のデトックス」だ。整術(せいじゅつ)と呼んでいる。
頭のなかに散らかっている「やりたいこと」「やるべきこと」「やれそうなこと」を全部テーブルに出して、優先順位をつけて、いらないものを手放していく。
足すのではなく、引く。
これをやらないまま「飽きづらい仕事を見つけよう」としても、ノイズまみれの頭では正確な判断ができない。
頭のなかがカオスな状態で自己分析しても、ノイズに引っ張られてしまう。だからこそ、まず最初に頭のなかを整理する。ノイズを引く。その順番がとても大事だ。
私自身が「もっと早く知りたかった」
20代で転職を繰り返し、月100万円稼いだ仕事を飽きて手放し、何も積み上がらないまま年齢だけが重なっていた頃の自分に、この話を聞かせてあげたかった。
飽きることは悪いことではない。ただ、飽きとの付き合い方を知っているかどうかで、キャリアの積み上がり方がまったく変わる。
まとめ
HSS型HSPの「飽き」は、意志の弱さではなく気質だ。情報処理の速さゆえに、全体像が見えた瞬間に刺激が消えてしまう。だから「治す」のではなく「付き合い方を設計する」ことが極めて重要になる。
飽きたときにやりがちな失敗パターンは3つ。全部投げ出してリセットする。すぐ次の刺激に飛びつく。「稼げるから」「格好いいから」で次を選ぶ。共通しているのは、足し算で解決しようとしている点だ。
対策は二段構え。
ひとつ目は、飽きても回る仕組みを最初から設計すること。ゼロからイチを作る立ち上げフェーズに自分の強みを集中させて、運用フェーズは仕組みに任せる。
ふたつ目は、そもそも飽きづらいことを選ぶこと。刺激の供給が途切れにくいクリエイティブな仕事との相性が良い。逆に、ルーティン中心の環境や過度なプレッシャー環境は避けたほうがいい。
そして最も大事なのは、飽きづらいことを選ぶためには、まず頭のなかのノイズを引き算で整理する必要があるということだ。選択肢を足すのではなく、削ぎ落とす。
あなたに必要なのは、新しい知識やスキルを足すことではなく、頭のなかの余計なものを引くことだ。
